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20代日本人女性が語る、タイ・バンコク現地採用の現実と未来【前編】

外務省の発表する海外在留邦人数調査統計によると、年々増加するタイの日系企業数は、2017年時点で3,925拠点。
この数は、中国、アメリカ、インドに次ぐ世界第4位に位置している。

また、在留邦人数に目を向けた場合、その数は7万2,754人に上り(同じく2017年のデータ)、こちらも世界第4位。
2002年は2万5,329人と記録されているので、15年で約3倍にまで増加していることが分かる。

既に日本のあらゆる大手企業が進出している状況を考えると、今後もタイで活躍する日本人は増え続けていくだろう。

そんなタイ在住の日本人だが、近年のテレビ番組の影響も手伝い、20~30代前半の若者が増えたと言われている。

日本社会では、答えのない閉塞感に苛まれる者も多い中、海外で生きるイマドキの若者は何を考え、何を見ているのか。

川口 里沙(仮名)29歳

タイに来てまもなく3年。今回特別に、現地採用の現実やタイの日本人社会、そして自身の未来について、赤裸々に語ってもらった。

ただ眩しく見えて、タイに行けば“何かがある”と思った

―川口さん、本日はよろしくお願いします。まずは、簡単に現在のご職業など、自己紹介いただけますか?

はい、よろしくお願いします。
栃木県出身の29歳、タイに来たのは2017年の春頃なので、もうすぐ3年になります。

今は、タイの日系製造業で、既存顧客のサポートを中心に営業職として働いています。

―月並みな質問ですが、なぜタイで現地採用として働こうと思ったのか、きっかけを教えてください。

今思えばすごく単純というか、ミーハーというか、きっかけはテレビ番組なんです。

私、会社選びのセンスが無いのか、いわゆるブラック企業を良く引き当ててしまうんですよね。
それもあって、大学を卒業してから仕事が長続きしなくて。
当時も、東京の化粧品メーカーで働いていたんですが、職場環境でストレスが溜まって、毎日「辞めたい辞めたい」と思っていました。

そんな時、たまたまテレビで、同世代の女の子がバンコクで楽しそうに暮らしているのを見て、「これだっ!」って。
毎朝ひどい顔で鏡の前に座る自分と比べて、すごくキラキラして見えました。

旅行で行ったことすらない国でしたが、”何かが”変わりそうな気がしたので、すぐにタイに行くことを決めました。

―行ったことのない国に移住とは、かなり思い切った決断ですね(笑)。タイ移住を決めてからはいかがでしたか?就活や引っ越しなど、スムーズにいきましたか?

正直、結構厳しかったです(笑)。

とりあえずWebから現地の人材会社に登録して、就活を始めました。
私の場合、語学力が無いので、タイ語や英語を使わない仕事を探しましたが、「語学力不問」の求人に絞った結果、給料や待遇はもちろん、選択肢自体が激減しましたね。

それでも人材会社に数社ピックアップしてもらい、書類選考に通った会社とSkypeで面接をしました。
その中の2社から、「現地で最終面接を実施します」という連絡が来て、バンコクに向かいました。

―そのうちの1社が今のお勤め先に当たるんですね。

いえ、タイで初めて入社した会社は半年で辞めました。

今の会社は、タイで初めて出来た友達の紹介で、社長と現上司との面接を経て入社が決まりました。

住まいは、現地の不動産会社さんに仲介をお願いして、こちらはすんなり良い物件に巡り合えたので良かったです。

現地採用は言うほどキラキラした海外生活ではない

―タイ生活が輝いて見えた、と話されていましたが、実際どうですか?

そうですね、それなりに楽しんでます。
ただ、思い描いた通りではありませんが(笑)。

―具体的に言うと、どの辺りが日本で思っていたこととギャップがありましたか?

まずは、物価ですね。
未だに「バンコクの物価は日本の1/3」と言っているテレビ番組を見ますが、あれは本当に注釈を付けるべきですよ。
※現地の人と全く同じ生活が出来るのであれば、みたいな感じに。

確かに、3食全てを屋台のタイ料理で済ませられれば、食費は1/3以下になりますが、ほとんどの日本人が無理だと思いますよ。
タイ料理が美味しくないとか嫌いとかではなく、日本食が絶対に恋しくなりますから。

日本料理店のランチを食べれば、大体200バーツ(約700円)前後。
友達と居酒屋に飲みに行けば、日本より高くつくことの方が多いです。
だから、そうそうパァーっとは出来ません。

日用品や家財道具などにしても、東南アジアって「安かろう悪かろう」が凄いんです。
安いものを買うとすぐ壊れたり、そもそも使い物にならないくらいの粗悪品だったり。
それで、それなりの物を買おうとすると、日本の倍以上の出費になることも珍しくありません。

―言える範囲内で、給料や貯金などの懐事情はどうでしょう?趣味などに充てる余裕はありますか?

月給は5万5,000バーツ(約19万3,000円)、ボーナスは年1回で業績によって変わります。
東京だと贅沢は出来ない金額ですが、バンコクは住居のコスパが良いので、だいぶ助かっています。

今住んでいる物件は、家賃1万3,000バーツ(約4万6,000円)で、駅にも近く、プールやフィットネスジムも付いています。滅多に使いませんが(笑)。

趣味で言うと、マッサージが好きでしょっちゅう通っていますが、1時間200バーツほどなので、そこまで気にしていません。
あと、バンコクはLCC(格安航空)天国なので、片道5,000円くらいで隣国に遊びに行けるのは嬉しいですね。

一時帰国などで大きなお金を使うタイミングもありますが、毎月1万バーツ(約3万5,000円)以上は貯金出来ていると思います。

―クオリティ・オブ・ライフは、日本時代よりも上がったということですね。十分キラキラしているようにも見えますが?

んー、どうでしょう。
正直に言うと、美味しい料理にスパ三昧、毎週リゾートでバカンスみたいなのをイメージしてましたからね(笑)。

でも実際は、「昨日の夜は外食で結構使ったから、今日の昼は屋台にしよう」とか、「スタバは高いからアマゾン(タイのコーヒーチェーン)にしよう」とか、毎日何かしらの我慢はありますよね。
まあ、これに関しては、日本にいても当たり前のことなんですが。

あと、比較はいけないことと理解してるつもりなんですが、どうしても日本との差にイラッとしてしまうこともあって、日本時代とは種類の違うストレスを感じることもありますね。

働き方やライフスタイルはタイに軍配が上がる?

―本音で答えていただきありがとうございます。では、タイでの働き方はいかがでしょう?

今までの引きが悪すぎるので、参考になるか分かりませんが、かなり満足してます。
残業はほとんどありませんし、日本人の数が少ない分、結束やそれぞれの思いやりの気持ちが強いので、日本人との人間関係で困ることは一切ありません。

―”日本人との”という点が引っかかってしまいました(笑)。やはり仕事上での文化の違いは苦労しますか?

仕事上では苦労します(笑)。
例えば、仕事が納期に間に合わなかったりしても、彼らは自分のミスを認めず、ありとあらゆる言い訳を使って誤魔化すことが多いんです。

プライドが高いという国民性もありますが、タイの地方出身者は親が出稼ぎに出ているケースが多く、おじいちゃん・おばあちゃんに甘やかされて育てられた人が多いことも関係してるのかもしれませんね。

あとは、一度に処理できる範囲が広くない人も多いみたいで、最初の頃に色々な注文をしたことがあったんですが、同僚のタイ人スタッフに「一度にそんなに言われても覚えられません!」って怒られました。
もちろん、人によりけりですけどね。

ただ、仕事が最優先の日本に比べたら、必ず定時ジャストに終業し、自分の時間や家族との時間を大切にするライフスタイル、個人を尊重する姿勢みたいなものは、圧倒的にタイが勝ると思います。

眩く見えたタイ移住。しかし、現実はそう甘くなく、日本で経験のない苦労を味わうことも少なくない。
次回は、20代現地採用女子の未来について語ってもらう。

(聞き手・文:Hayabusa Jiro)